IT導入補助金ではカバーしきれないケース
IT導入補助金は、生産性の面で大企業に劣る中小企業を支援するために、国がIT活用を後押しする目的で設けた制度です。その思惑どおり、中小企業の生産性向上のために、IT導入補助金は一定の役割を果たしてきたといえます。
しかし、IT導入補助金だけでは中小企業のIT導入を十分に支援できない場合もあります。自社の場合はIT導入補助金で十分なのか、それとも他の補助金を検討すべきなのか以下の点を確認しましょう。
金額面での支援が不十分なケースがある
IT導入補助金には補助上限額が設けられており、最大でも450万円までの支援にとどまります。必要な投資額がそれを上回る場合は、別の補助金制度を活用する方が適している場合があります。
補助率も重要なポイントです。中小企業は通常枠やセキュリティ対策推進枠の場合で1/2、小規模事業者や一定の条件を満たす事業者の場合で2/3の補助率が適用されます。最低賃金近傍者の場合、通常枠でも2/3になりますが、いずれの場合もIT投資にかかった費用の全額が補助されるわけではない点に注意しましょう。
通常枠で中小企業が最大金額を受け取れるのは、IT投資額が900万円もしくは最低賃金近傍者の場合675万円で、補助金額が450万円のケースです。しかし、IT投資額が900万円を超える場合は補助上限額の高いものづくり補助金や中小企業新事業進出補助金がおすすめです。
また、補助上限の範囲内であっても、IT投資額が増えるほど自社負担は大きくなります。比較的小規模なIT投資を対象に、なるべく高い補助率で支援を受けたい企業には、補助率が2/3、補助上限額50万円〜250万円の「小規模事業者持続化補助金」などが適しているケースもあります。
補助対象は「登録されたITツール」のみ
IT導入補助金の特徴の一つに、IT導入支援事業者との協力関係が求められることがあります。いくら導入したいITツールがあっても、そのITツールがIT導入支援事業者を通じて、補助金事務局に補助対象として登録されていないと補助金を利用することはできません。導入したいITツールを登録しているIT導入支援事業者と、協力して申請を行う必要があります。
このため、IT導入支援事業者が登録していないITツールや、独自に開発するパッケージ化されていないシステムなどは、補助金の対象外となる点に注意が必要です。
ホームページの作成には使えない
中小企業のなかでも、小規模事業者はおよそ85%を占めるといわれています。その多くが、自社ホームページを持っておらず、販路開拓の一環としてホームページを作成したいと考えるケースもあるでしょう。
しかし、IT導入補助金は、ECサイトを含む集客・情報発信を目的としたホームページの作成には利用できません。
ホームページ作成を補助対象とする制度としては、「小規模事業者持続化補助金」があります。販路開拓を目的とするなど一定の条件を満たせば、対象となる可能性があります。
参照: 中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果を公表します|経済産業省
IT投資に活用できるその他の補助金
IT投資に利用できる補助金は、IT導入補助金だけではありません。目的や事業内容によっては、他の補助金を検討することで、より効果的な支援を受けられることもあります。
例えば、ITツールの導入でも、開発要素や業務改革につながる内容であれば、ものづくり補助金の対象になるケースがあります。ここでは、IT導入補助金以外の主な補助金をご紹介します。
- ●ものづくり補助金
- ●小規模事業者持続化補助金
- ●中小企業新事業進出補助金
ものづくり補助金
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」ですが、「ものづくり補助金」という略称で広く知られている補助金です。ものづくり補助金は、革新的な製品やサービスの開発に取り組む企業におすすめです。補助下限額は100万円で、従業員数によって補助上限額は異なります。
- ●5人以下:750万円
- ●6~20人:1,000万円
- ●21~50人:1,500万円
- ●51人以上:2,500万円
補助率は原則1/2ですが、小規模企業・小規模事業者および再生事業者の場合は2/3になります。
ものづくり補助金を活用するには、ITツールの導入が単なる業務効率化にとどまらず、自社の事業全体の革新や付加価値の向上につながることが求められます。補助金交付候補者として採択された後には、交付申請を行い、その経費や事業内容が補助対象として適切かどうかを、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金事務局が精査する仕組みとなっているためです。
そのため、申請書の段階から、導入するITツールがどのように事業の革新性や付加価値向上に貢献するのかを明確に示しておくことが重要です。迷った場合は、専門家に相談し、自社で行うITツールの導入が、ものづくり補助金の対象となるのかを確認するとよいでしょう。
参照: ものづくり補助金総合サイト公募要領|全国中小企業団体中央会
小規模事業者持続化補助金
中小企業のなかでも、従業員数5名以下(一部業種は20名以下)の小規模事業者を対象とした補助金です。ベースの補助額は50万円までですが、補助率は2/3と高く、使いやすい補助金として知られています。また、賃金引上げ特例の要件を満たす赤字事業者は補助率が3/4と、自己負担額をさらに抑えることができます。
補助額も、インボイス特例の要件を満たしている事業者には50万円の上乗せが、賃金引上げ要件を満たしている事業者には150万円の上乗せが適用されます。両者の要件を満たしていれば、最大200万円の上乗せで250万円まで補助額が拡大するため、小規模事業者には活用しやすい補助金です。
小規模事業者持続化補助金は、チラシや看板の制作など販促活動に広く活用されており、ホームページの作成にも対応しています。販路拡大に取り組む小規模事業者にとっては、IT導入補助金よりも使いやすい場面もあるため、まずは近くの商工会・商工会議所に相談してみるとよいでしょう。
中小企業新事業進出補助金
新たな市場や事業への進出を支援し、中小企業の生産性を向上させることが目的の補助金で、2025年に新設された制度です。従業員数によって補助上限額は異なります。
- ●20人以下:2,500万円
- ●21〜50人:4,000万円
- ●51~100人:5,500万円
- ●101人以上:7,000万円
補助率は一律で1/2に設定されており、補助対象経費にはITシステム導入費・建物費・機械装置費・広告宣伝費など幅広い項目が含まれます。補助上限額が大きいため、新規性のある製品やサービスで新たな市場に進出する企業にとって活用しやすい補助金です。
また、中小企業新事業進出補助金は生産性向上を通じた賃上げの実現も目的の一つに含まれています。基本要件として賃上げに関する項目があり、指定された期間内に目標を達成できない場合は、補助金の返還が求められることもあるため事前の要件確認が必要です。まずは公募要領をよく読み、不明点を事務局に相談するのがよいでしょう。
参照: 中小企業新事業進出補助金|独立行政法人中小企業基盤整備機構
まとめ
企業によっては、IT導入補助金よりも適した補助金があります。その一例として、ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金・中小企業新事業進出補助金の3つを紹介しました。申請にはちょっとしたコツがあります。まずはベンダーや、サポートしてくれる企業に相談してみてはいかがでしょうか。