
経営分析とは
経営分析とは、貸借対照表や損益計算書などから自社の状態を知ることです。これらの書類を基に、生産性や収益性、安全性などの観点から自社のことを客観的に把握します。そして、それを基に経営方針を策定したり見直したりするのが目的です。
経営分析の種類(財務・非財務)と目的別の使い分け
経営分析には大きく分けて財務分析と非財務分析の2つがあります。財務分析は、売上や利益、資産・負債など財務諸表に基づいた指標で経営状況を定量的に把握する手法です。
一方、非財務分析は、従業員満足度・顧客満足度・ブランド価値など、数値化が難しい要素を評価します。例えば、製造業では生産効率や稼働率、小売業では顧客リピート率などが該当します。目的に応じて使い分けることで、経営の見える化と意思決定の質が高まります。
経営分析の重要性
自社の強みや弱みを把握することは、健全な成長を目指すうえで欠かせません。しかし、これらを的確に把握することは思いのほか困難です。把握しているつもりでも、それは主観的にそう思っているだけかもしれません。
そこで重要になるのが経営分析です。これは数値を基に自社の状態を客観的に捉える作業であるため、主観を取り除いて強みや弱みを正確に把握できます。こうして把握した自社の状態を基に、経営計画の策定や改善を実施できます。
例えば、成長性が高い反面、安全性が低かったとしましょう。この場合「攻めの姿勢は良いが、今後は資金運用にも注意しよう」といった形で経営方針を見直せます。
経営分析は誰が行う?経営者・現場・財務部の役割
経営分析は経営者だけでなく、財務部門・事業部門・現場マネージャーなどさまざまな立場の人が関与します。経営者は全社の戦略判断に必要な指標を見極め、財務部門は会計数値から財務健全性を分析します。
また、現場の部門長も売上やコスト構造を可視化することで、現場改善やPDCAに役立てられます。組織全体で同じ指標をもとに議論・判断できる状態をつくることで、経営分析の効果が最大化します。
経営分析で見るべき指標
続いて、見るべき指標に焦点を当てながら経営分析の手法を紹介します。
利益の獲得能力を測る「収益性分析」
自社が利益を獲得する能力を分析する収益性分析では、以下の指標が使われます。
- ■ROA:経常利益/総資本
- 資本に対する売上の大きさを示し、高いほど良い。
- ■ROE:当期純利益/自己資本(株主総資本)
- 株主資本の活用度を示し、高いほど良い。
- ■棚卸資産回転率:売上高/棚卸資産
- 高いほど資産の運用効率が良い。
- ■売上債権回転期間:売上債権/売上高
- 代金回収までの期間を示し、低いほど良い。
- ■有形固定資産回転率:売上高/有形固定資産
- 有形固定資産の活用度を示し、高いほど良い。
- ■売上高総利益率:売上総利益/売上高
- 高いほど製品の収益力が強い。
- ■売上高営業利益率:営業利益/売上高
- 高いほど営業力が強い。
- ■売上高経常利益率:経常利益/売上高
- 総合的な利益率を示し、高いほど良い。
- ■売上高販管費率:販管費/売上高
- 低いほど経営効率が良い。
- ■損益分岐点売上高:固定費/限界利益率
- 収支が0になる売上高のこと。
財政基盤の健全さを測る「安全性分析」
安全性分析とは、借金の返済能力を分析することです。以下の指標が用いられます。
- ■流動比率:流動資産/流動負債
- 短期的な返済能力を示す指標の1つで、200%以上が理想的。現実には130%前後が多いといわれている。
- ■当座比率:当座資産/流動負債
- 短期的な返済能力を示す指標の1つで、高いほど良い。
- ■固定比率:固定資産/自己資本
- 固定資産に使われた資金が、自己資本でどれほど賄われているかを示す。低いほどよく、100%以下が望ましい。
- ■自己資本比率:自己資本/総資本
- 総資本のうち自己資本が占める割合を示す。自己資本は返済の必要がないため、高いほど安全性が高いことを意味する。
付加価値の効率性を測る「生産性分析」
生産性分析とは、利益を生み出すためにどれほど資産を有効活用できているかを分析することです。以下の指標が用いられます。
- ■労働生産性:付加価値額/従業員数
- 従業員1人当たりの付加価値額を示す。高いほど良好だが、適正な数値は業種により異なるため、過去の記録や競合他社のデータと比較すると良い。
- ■資本生産性:付加価値額/総資本
- 投入した資本に生じた付加価値を示す。高いほど良い。
- ■労働分配率:人件費/付加価値額
- 付加価値に対する人件費の割合で、低いほど良い。基本的には40~60%が良好とされているが、具体的な適正値は企業規模や業種によって異なる。
企業規模の拡大度合いを測る「成長性分析」
成長性分析とは、企業が成長する可能性やその成長度合いを分析することです。以下の指標が用いられます。
- ■売上高増加率:(当期売上高-前期売上高)/前期売上高
- 売上高が前期と比べてどのくらい増加したかを示す。高いほど成長が著しいことを意味する。
- ■利益増加率:(当期経常利益-前期経常利益)/前期経常利益
- 経常利益が前期と比べてどのくらい増加したかを示し、高いほど良い。
- ■総資産増加率:総資産増加額/基準時点の総資産残高
- 企業の総資産がどれほど増えたかを示し、高いほど良い。
- ■純資産増加率:純資産増加額/基準時点の純資産残高
- 企業の純資産がどれほど増えたかを示し、高いほど良い。
- ■従業員増加率:(当期従業員数-前期従業員数)/前期従業員数
- 企業の従業員数がどれほど増えたかを示し、基本的には高いほど良い。しかし、設備を導入した結果従業員を削減するなどのケースもあるため、一概には言えない。
- ■EPS:当期純利益/普通株式の期中平均発行済株式数
- 一株あたりの利益額を示す。高いほど企業の収益力が強いことを意味する。
経営指標一覧と比較表【収益性・安全性・生産性・成長性】
経営分析では、複数の視点から企業の健全性を評価するために、以下のような4つの経営指標群を使い分けます。
分析分類 | 代表的な指標 | 意味・使い方 |
---|---|---|
収益性分析 | 売上高営業利益率、ROE | 利益を効率的に生み出せているか |
安全性分析 | 自己資本比率、流動比率 | 財務体質の健全性を測る |
生産性分析 | 労働生産性、付加価値額 | 人・資源の活用効率を評価 |
成長性分析 | 売上高成長率、利益成長率 | 将来性や成長スピードを確認 |
経営分析をうまく行う方法
次は、経営分析を上手に行う方法を3つ解説します。
正しい数値の財務諸表を準備する
どれほど精密に分析を行っても、基となるデータが間違っていたのでは意味がありません。データが間違っていれば分析結果も間違ったものになり、それを基にした経営判断も見当違いのものになります。したがって、まずは正しい数値の財務諸表を用意しましょう。
自社にあった指標を選定する
これまで紹介してきたように、経営分析にはさまざまな指標が用いられます。そのどれを選ぶべきかは企業の規模や業種によって異なるため、自社に適したものを考えることが大切です。
例えば、生産性分析における労働生産性を例に考えてみましょう。
これは「付加価値額/従業員数」で算出されるため、大きいほど望ましいです。しかし、従業員が担っているのが技能を必要としない単純作業であれば、この数値が低くなるのは自然なことといえます。むしろ、その従業員に対して過剰な人件費がかかっていないかを知るために、労働分配率を重視したほうがよいかもしれません。
また、それが製造業であるなら棚卸資産回転率などもあわせて重視すべきでしょう。
BIなどの経営分析ツール活用を検討する
経営分析に必要なデータをエクセルで管理している企業は多いでしょう。しかし、それでは手作業にばかり手間がかかり、肝心な分析や経営判断に十分な労力を割けないかもしれません。
その課題を解決する手段として、近年では経営分析専用ツールや、分析機能を備えたBIツールの活用が注目されています。例えば、会計システムなどと連携して自動でデータを収集し、ダッシュボード形式で可視化してくれるツールであれば、手作業の手間を削減しながら、精度の高い分析が可能です。
なかにはエクセルのファイルをそのまま活用できる製品も存在します。つまり、データの管理体制を大きく改変することなく、利便性だけを高めることも可能です。新しいシステム導入に不安を感じる企業でも、スモールスタートがしやすいでしょう。
以下の記事では、おすすめのBIツールを機能や特徴ごとにタイプ分けし、料金やレビュー評価なども含めて徹底比較しています。経営企画や管理部門の方にとって、ツール選びの参考になるはずです。
経営分析を正しく行い、自社の業績を改善させよう
経営分析は、自社の現在地を正確に把握し、将来の方向性を見極めるために不可欠なプロセスです。属人的な判断から脱却し、迅速かつ的確な意思決定を行うには、分析環境の整備が欠かせません。
まずは自社にあった経営分析の手法やツールを知ることからはじめましょう。以下の記事では、BIツールの比較情報を掲載しています。ぜひ参考にして、最適なツール選びにお役立てください。
