RAG搭載サービスとは
RAGとは、Retrieval Augmented Generationの略で、日本語では検索拡張生成と訳されます。従来の生成AIが学習済みのデータのみをもとに回答を生成するのに対し、RAGは外部の情報ソースを検索し、その内容をもとに回答を生成する仕組みです。これにより、学習済みの知識に依存せず、最新情報や社内のユニークデータにも対応できます。
RAGを活用したサービスは、主に次のようなステップで処理が行われます。
- ●ユーザーが入力した質問を受け取り、意味ベクトルへ変換
- ●指定された外部データベースで、類似する文書や情報を検索
- ●検索で得られた文書のうち、もっとも関連性の高い数件をコンテキストとしてLLMに渡す
- ●コンテキストを踏まえたうえで、LLMが自然な文章を回答として生成し、ユーザーへ出力
この仕組みにより、最新の情報や社内専用の非公開データに基づいた、より精度の高い回答生成が可能です。
RAG搭載サービス活用のメリット
ChatGPTなど従来の生成AIは、汎用的な知識を基盤としていますが、RAG搭載サービスを活用すると、以下のメリットが得られるという大きな違いがあります。
出典の明示
回答の根拠として、どの文書やURLを参照したか出典を明示でき、ユーザーにとって信頼性の高い応答が可能です。裏付けのある情報提供により、情報の透明性と信頼性が向上します。特に、業務における意思決定や社内外への説明責任が求められる場面では、情報の出所が明確であることが重要です。
また、情報の妥当性や更新状況をユーザー自身で検証できます。
精度の向上
RAGは、社内文書や業務データなどの情報源に直接アクセスして回答を生成するため、求めている情報に対する回答の精度が向上します。さらに、リアルタイムの情報で業務の状況変化や制度改定にも柔軟に対応でき、業務に活用する際の誤情報の拡散リスクが低減します。
業務特化
社内文書、FAQ、データベースなど、業務に特化したデータを活用することで、より実用的かつ具体的な回答を得られます。また、業務の専門性にあわせたカスタマイズが可能なため、より迅速で適切な支援を提供します。
例えば、製品仕様書や社内マニュアルを参照させることで、問い合わせ対応や社内サポートにおいて、形式や表現が統一された正確な回答を即座に生成できます。
社内での活用例
RAG搭載サービスは、業種や職種を問わず、日々の業務において幅広く活用できます。例えば、社内のFAQ検索システムのような単独利用や、CRMと連携して、顧客情報にもとづいたパーソナライズ回答を可能にする活用方法もあります。具体的な活用例として以下のようなものが挙げられます。
過去の案件調査
営業やカスタマーサクセスでは、過去の提案書や商談記録をナレッジベースから自然言語で検索できます。RAGを活用することで担当者が過去の提案資料や商談履歴を探す時間が短縮され、営業提案のスピードと質の向上が期待できます。
顧客問い合わせ対応
カスタマーサポートやコールセンターでは、社内のFAQやマニュアル、過去の問い合わせ履歴などをナレッジとして統合し、RAGが質問に対する最適な回答を生成します。よくある問い合わせには即時回答が可能となり、サポート担当者は複雑な案件への対応に集中できます。
経費精算や勤怠管理
人事や経理部門では、就業規則や経費計算マニュアルなどの社内ドキュメントをRAGに取り込むことで、社員からの問い合わせに即座に適切な回答ができます。定型的な質問や手続きにかかる手間を減らし、申請プロセスのガイド自動化にも役立ちます。
以上のように、RAG搭載サービスには業務効率化やユーザー体験の向上といった多くのメリットがあります。ただし、導入初期には業務フローの見直しや技術的な設計工数が発生するケースもあるため、自社の運用体制や目的に照らして検討することが大切です。
RAG搭載サービスの必要性
RAG搭載サービスが必要とされる最大の理由は、企業が扱う情報量の大幅な増加です。デジタル化や、クラウドやSaaSといった社内外のツールの普及に伴い、情報経路が複雑化しました。必要な情報を探す手間が増えたことで、より正確で迅速な情報活用のニーズが高まっています。
RAG搭載サービスの主な機能
RAG搭載サービスは、適切な情報を抽出・生成して意思決定やナレッジ共有に役立て、社内に眠っているデータを活性化させます。ここでは、RAG搭載サービスがもつ主な機能について解説します。
情報検索機能
RAG搭載サービスの中核となるのが情報検索機能です。具体的には、ベクトル検索や全文検索などの検索方式があります。
ベクトル検索とは、社内文書や情報などを、意味合いにもとづいて検索する技術で、RAGの中心的な検索方式と広く採用されています。関連性の高い情報も抽出できるため、より深い洞察が得られます。
一方、全文検索は単語をインデックス化して検索します。文章中の単語と完全または部分一致する文書を探し出すため、検索の速さと単語の正確性を確保できます。
自然言語による応答生成
自然言語による応答生成のアルゴリズムは、入力文をベクトル化し、その文脈を理解したうえで、次に出現する単語の確率を予測しながら文章を構築する仕組みです。Transformerモデルと自己回帰的な生成方式を用いることで、人間らしく自然な応答が可能になります。
この応答生成には、トークン化や構文解析、文脈理解といった自然言語処理の技術が基盤として組み込まれています。言語の構造や意味を適切に捉えることで、文脈に合った正確で自然な返答が実現されます。
RAG搭載サービスの特長
RAG搭載サービスは、単なる情報検索や自動応答にとどまらず、業務全体を支える高度な機能を兼ね備えています。ナレッジの質を高めながら、セキュリティや使いやすさにも配慮されており、現場での実用性が高い点が特長です。ここでは、そうしたRAG搭載サービスならではの主な特長について紹介します。
ナレッジの継続的な最適化
RAG搭載サービスは過去の質問内容や回答の評価、クリックされたリンクなどの情報を記録し、ナレッジベースの精度改善に活かしています。こうしたフィードバックを反映することで、企業固有の言い回しや専門用語にも対応できるようになり、より実務に即した応答品質の向上が期待できます。
セキュアなデータ管理体制
RAG搭載サービスは、社内データなどの機密性の高い情報を扱うため、セキュリティ対策は特に重視されています。データの暗号化やアクセス制御、監査ログ管理といった多層的なセキュリティ機能を備えており、情報漏えいリスクを最小限に抑えながら、安全に利用することが可能です。
導入や定着のしやすさ
RAG搭載サービスは、UIを自社のブランドイメージや業務スタイルにあわせて柔軟にカスタマイズできるものが多く、ユーザーにとって親しみやすい利用環境を構築可能です。さらに、SlackやMicrosoft Teamsなどのビジネスツールと連携機能を備えた製品も多く、日常的に使い慣れたツール上からそのままRAG機能を活用できます。
業務フローの中に無理なく組み込めることから、定着しやすく、スムーズな導入と業務効率化が同時に実現します。
RAG搭載サービスの比較ポイント
RAG搭載サービスを導入する際には、自社の業務課題に最適なサービスを選定し、効果を最大化するために以下のポイントを押さえることが重要です。
AIモデル別の特性
RAG搭載サービスが対応しているAIモデルによって、回答の質や得意分野が異なります。GPT-4、Claude、PaLMなど、それぞれAIモデルの特性を理解し、自社のニーズに合ったものを選びましょう。
例えば、GPT-4は汎用性が高く、多様な業務領域に対応できるモデルです。Claudeは文章の構造化や要約に強みがあり、ドキュメント処理やレポート作成に適しています。また、PaLMはGoogleの検索技術との親和性が高く、Web情報の活用や多言語対応において優れた性能を発揮します。
このように、各モデルの特性を理解して使い分けることで、業務内容によりフィットしたRAG環境を構築することが可能です。
対応するデータ形式・量
RAG搭載サービスが対応しているデータ形式やデータ量も重要なポイントです。PDFやWord、社内DBなど、自社で利用しているデータ形式に対応しているか、十分なデータ量を処理できるかを確認しましょう。
特に、複数のファイル形式が混在する環境や、大量の非構造データを扱う業務では、データの取り込み精度や前処理機能の有無が、サービスの実用性を左右します。導入前には、対応可能なデータソースとその処理能力を検証し、現場の業務フローに無理なく組み込めるかどうかを見極めることが重要です。
セキュリティ
RAG搭載サービスは、社内データや外部データをもとに回答を生成する仕組み上、検索・応答の各プロセスにおいて情報漏えいリスクがあります。
具体的には、IPアドレスによるアクセス制限やユーザーごとの権限設定、データの保存期間や削除ルールなど、セキュリティ関連の機能や運用ポリシーが整備されているかを確認することが大切です。
サポート体制・PoC支援の有無
RAG搭載サービスの導入には、技術的、運用的な面で専門的な知識が必要となる場合があります。
例えば、社内文書をベクトル形式に変換して検索可能にする際には、自然言語処理やベクトル検索エンジンの知識が必要です。そのため、社内に専門的な知識をもった人がいなければ、ベンダーのサポート体制やPoC(概念実証)支援の有無も重要な選定基準になります。
つづいて、おすすめのRAG搭載サービスを4つのタイプにわけて紹介します。RAG搭載サービスはそれぞれ得意分野が異なるため、自社のニーズに合ったサービスを見つけるために、参考にしてみてください。
【汎用型】おすすめのRAG搭載サービス
あらゆる分野の文書やデータソースに対応し、幅広い質問に柔軟かつ広範な知識で回答できます。用途を限定せず、さまざまな業務やユースケースに適しており、社内で横断的に活用したい企業におすすめです。
生成AI/LLMスタータープラン
- 高い拡張性のシステム設計で生成AI特有のビジネスリスクにも対応
- Microsoftなど強力なパートナーと連携したサポートを提供
- 改善のためのログ収集や解析に用いるプロンプトログを蓄積
株式会社ブレインパッドが提供する「生成AI/LLMスタータープラン」は、議事録生成や社内情報検索など、社内で汎用的に利用されることが多い機能が搭載されている点が強みです。最短1か月で環境構築が可能でスピーディーに活用でき、その後のビジネス拡張サポートも充実しています。
EXPLAZA 生成AI Partner
- 実用的な生成AI活用の支援
- 素早く高品質なプロダクト開発
- 生成AIに関する高い専門性
株式会社EXPLAZAが提供する「EXPLAZA 生成AI Partner」は、ノーコードで業務AIを構築でき、戦略立案から実際の開発・導入・運用フェーズまで一貫してサポートします。活用フェーズに応じて総合的に支援するため、社内に十分なAI知見やリソースがなくても着実に成果を創出できます。
OfficeBot
ネオス株式会社が提供する「OfficeBot」は、最短1分で使える社内特化型のチャットボットです。独自のAIにより社内FAQやマニュアルを学習し、社内問い合わせのほとんどを自動応答に移行できます。ノーコードによる手軽な導入と運用で、情シス・総務が抱える課題「質問対応地獄」を即座に解放します。
【社内検索特化型】おすすめのRAG搭載サービス
社内文書やナレッジベースに特化しており、過去の議事録や提案書、マニュアルなどから必要な情報を瞬時に引き出せます。過去の取引履歴などをもとに提案資料を準備する営業部門など、情報の蓄積と活用が鍵となる業務におすすめです。
クウゼン生成AIチャットボット
株式会社クウゼンが提供する「クウゼン生成AIチャットボット」は、企業の業務効率化と顧客体験向上を支援します。ノーコードでシナリオ作成が可能で、LINEやSlack、Microsoft Teamsなどのツールと連携できます。また、RAG技術や独自の自然言語処理により、正確で迅速な情報提供を実現しています。
【FAQ対応特化型】おすすめのRAG搭載サービス
定型的な問い合わせに対して、即時かつ一貫した回答を提供し、顧客対応や社内ヘルプデスクの効率化を支援します。FAQに特化した検索と応答機能により、顧客は求める情報に正確かつスピーディーにたどり着けます。
自社でサービスを提供していたり、問い合わせ窓口を設けている企業にとっては、対応の効率化と顧客満足度の向上を同時に図れるため、おすすめです。
LynxBot
株式会社LYZONが提供する「LynxBot」は、最新のRAG技術とMicrosoft Copilot Studioを活用したAIチャットボットです。SharePoint上の情報を自動で学習し、GPT-4oを用いて高精度な回答を提供します。Microsoftのセキュリティ技術により、安心して利用できます。
【特定業界向け】おすすめのRAG搭載サービス
業界固有の専門用語や規制に対応した高精度な検索と回答を実現します。信頼性と安全性を重視した設計で、業務現場での実用性とコンプライアンスを両立します。
医療業界や金融業界など、セキュリティ要件が厳しく、専門的な対応が求められる業界には、汎用的なRAGサービスでは対応しきれないケースもあります。高度な対応力を備えた製品を探している企業におすすめです。
Liaro生成AI導入支援サービス
- 商品・業務特性にあった、貴社にカスタマイズした生成AIを開発
- 医薬品、アパレル、食品、不動産など幅広い分野での成功事例あり
- 本稼働後もサポート!AIモデルの精度やUXを継続的改善
株式会社Liaroが提供する「Liaro生成AI導入支援サービス」は、業務特性に合った生成AIを企業ごとにカスタマイズして開発します。10年近くAI事業を展開しており、医薬品やアパレル、食品、不動産など幅広い分野での成功事例があります。企業の構造化データと非構造化データに加え外部データを用いて、カスタマイズした生成AIシステムを最適化します。
CorporateOn
株式会社LegalOnTechnoligiesが提供する「CorporateOn」は、法律・税務などのナレッジと社内専用に構築できるRAGシステムが強みです。法務関連ソフトウェアで、世界7,000社以上の導入実績をもつLegalOnTechnoligiesのデータベースを提供することで、専門的な内容や高度な課題にも対応が可能です。
導入料金の目安
RAG搭載サービスの導入料金は、主に初期費用と月額費用で構成されます。
中小企業では、導入負担の少なさやスピード感が重視されることが多いため、初期費用を抑えた月額課金型のクラウドサービスが選ばれる傾向があります。
- ■中小企業向け参考価格
- 初期費用: 0円~15万円程度
- 月額費用: 980円~5万円程度
大企業では、社内システムとの高度な統合や、複数部署での大規模な運用を想定したカスタマイズが必要になることが多く、その分初期構築費用や月額費用が高くなる傾向があります。また、アクセス権管理や監査対応といったセキュリティ要件が追加されることも、コストに影響します。
このように要件によって費用は大きく異なるため、具体的な費用感を把握したい場合は、資料請求やお問い合わせをおすすめします。
- ■大企業向け参考価格
- 初期費用: 260万円~数千万円程度
- 月額費用: 10万円~数百万円程度
まとめ
RAG搭載サービスは企業のデータ活用を促進し、業務効率を向上させる便利なツールです。社内にナレッジはあるのに活かしきれていない、生成AIを業務に導入したいが既存のツールでは限界がある、このような課題を抱える企業にとって、RAGは現実的で効果的な解決策となり得ます。サービスによって得意な領域が異なるため、自社の抱える課題や環境などと照らしあわせて比較しましょう。