ERPのカスタマイズとは
企業全体の業務効率化を図るシステムであるERP。オンプレミス型のERPではカスタマイズが可能ですが、自由度が高い反面、設計や保守の難易度が上がり、かえってシステムの柔軟性や拡張性を損なうケースも見られます。こうしたリスクを正しく理解したうえで、ERP導入時には「どこまでを標準機能で対応し、どこをカスタマイズすべきか」の判断が重要になります。
業務に合わせた機能最適化の手段
ERPのカスタマイズとは、自社の業務にフィットするようにシステムの機能に変更を加えることです。ERPは企業全体のデータを一元管理し、業務効率化や生産性の向上を実現するシステムですが、導入するだけでは必ずしも自社業務に適合するとは限りません。そのため、各企業の業務要件に合わせて、入力項目の追加や処理ロジックの変更、外部システムとの連携といった形でカスタマイズが必要になるケースがあります。
過剰なカスタマイズに潜むリスク
ERPを過剰にカスタマイズしてしまうと、標準機能との乖離が生じ、将来的なバージョンアップ時の対応コストが膨れ上がる可能性があります。よくある例としては、独自機能を増やしすぎたことでアップデートに対応できず、バージョン固定(いわゆる“塩漬け状態”)となり、システム全体の老朽化が進んでしまう事態です。
また、ERP製品固有の言語やフレームワークを使ってカスタマイズを行うため、一般的なプログラミングよりも高額な開発費がかかる傾向があります。さらに、バージョンアップごとに事前テストを繰り返す必要があり、運用面でも手間とコストがかかる点に留意が必要です。
ERPの導入の発生するコスト
一般的に中小企業向けのERPを導入した場合、費用は1機能だけでも数百万円、他の機能も合わせると1千万円以上になるといわれています。さらに、自社の業務に合わせてカスタマイズした場合、ERP導入時の数倍~数十倍の費用がかかることもあります。
カスタマイズにおける表の主な検討項目がは以下のとおりです。
- ■ライセンス費用
- 機能数やユーザ数など規模によって異なる
- ■サーバ費用
- サーバを維持や管理するためにかかる
- ■導入サポート費用
- データ移行、ERPコンサルタントによるサポートなど
- ■カスタマイズ費用
- システム連携など
- ■保守費用
- 年間ライセンス費用の20%程度かかる場合もある

クラウドERPとオンプレミスERPの費用の違い
先述のとおり、オンプレミス型ERPは、コストが割高になるほか、導入時には数千万円規模の投資が必要になるケースもあり、特に中小企業にとっては大きな負担となることがあります。
一方、クラウド型ERPは、初期費用を抑えつつ、月額料金で利用できるサブスクリプションモデルです。 月額費用は、1ユーザーあたり3,000~10,000円程度が相場で、 サーバー管理も不要です。スモールスタートが可能なため、近年ではクラウド型の導入が主流になりつつあります。
カスタマイズとアドオンの違い
アドオンとは、ERPに不足している機能を追加する拡張機能のことです。
ERPは汎用品であるため自社のニーズにフィットしたシステムを導入したとしても、機能が足りない場合が多く、企業は導入したERPの機能と自社の業務内容とのギャップなどの分析を行い、不足している機能を追加するためアドオン開発ツールを利用して機能の拡張を行います。
カスタマイズはシステムそのものに変更を加え自社の要件に適する仕様にしますが、アドオンでは機能を追加する形となります。
ERPのカスタマイズが失敗する原因
ERPのカスタマイズをした際に失敗する主な原因が4つあります。それぞれを詳しく解説していきます。
ERP=ベストプラクティスと思い込んでいる
ERPのカスタマイズを行う企業のほとんどが「ERPはベストプラクティスである」と思い込んでいます。それがカスタマイズの失敗につながってしまっているのです。
ベストプラクティスとは、「ある結果にたどり着くための最善の方法・最も効率の良い方法」を意味します。ERPがリリースされた当初、「ERPはベストプラクティスの集まりである」と言われ、普及しました。
ERPは日本とは商習慣の異なる欧米で開発された製品です。日本でそのままERPを導入して使用したとしても自社の業務に合うことはまずありません。ERPはベストプラクティスであるといった思い込みだけで導入すると思わぬ失敗を招くことになってしまいます。
自社に合ったERPソフトを選べていない
ERPの機能面のみ重視してしまい、自社の業務に合ったソリューションを選定できないことも失敗の原因として挙げられます。
また、現場スタッフの意見を聞かずにIT担当者や経営者のみでERPの導入をしてしまうことも失敗の1つだといえます。ERPを主に使うのは現場スタッフであり、スタッフの意見を聞かずに自社に合ったERPの選定を行うことは難しいでしょう。
そして、ERPの機能面のみ重視するのではなく自社の導入の要件を満たす製品を検討することが大切です。
機能が不十分
多くのERPソリューションは機能が固定されているため、自社の要件に合わない製品を導入してしまうと機能が不十分であることがほとんでしょう。ERPの機能が業務内容にそぐわないことから、逆に業務が非効率になってしまったり、スタッフがERPそのものを使わなくなるといった事態が生じてしまいます。
企業に成長と革新をもたらすはずのERPソリューションが、企業の成長をストップさせてしまう原因の1つになってしまうかもしれません。
ベンダーサポートが不十分
ERPを導入する際はベンダーサポートがしっかりしているかどうか、また、パッケージベンダーの将来性がどのようなものであるのかをしっかりと検討する必要があります。
ソリューションの導入を行う際、自社業務の内容とERPの機能面についてどの程度のギャップがあるのかをベンダーと分析することが大切です。この分析作業をベンダー任せにしてしまうと自社の業務にフィットしていないERPを導入してしまうことになりかねません。
またERPを導入後、ベンダーのサポートが受けられなくなることのないようにあらかじめ確認しておくことが必要です。導入後にサポートが打ち切りになってしまうと、新たな製品の導入を検討する事態にもなりかねません。
とはいえERPは適切に使用できれば、業務を非常に効率化してくれます。失敗例を知っておくことで、同じ過ちを回避することができますので、便利になるように運用できればとても心強いツールとなるでしょう。当サイトでERPの製品もご紹介しておりますので、ピンとくる製品がありましたら、ぜひ資料請求してみてはいかがでしょうか。
ERPカスタマイズの失敗を防ぐ方法
ERP導入後のカスタマイズを行う際に失敗を防ぐ2つの方法があります。それぞれを解説していきます。
ERPを導入する目的を決める
まず、ERPの導入目的を明確にしましょう。目的を明確化するためには、全ての部門での業務の洗い直しや現場スタッフの意見を参考にすることが大切です。そして、現状の課題を明確にし、ERP導入により得られる効果を具体的に示します。
導入に至るまでの細かな分析により、導入後の失敗の可能性を低くすることができます。この分析を怠ることで、要件定義後のベンダーからの見積額が大幅に増えてしまい、導入自体を断念するということにもなりかねません。
そのような事態を避けるためにも、あらかじめERP導入の目的を明確化し、細かな分析を行うことが大切です。
ERPで行う業務範囲を決める
ERP導入時は、業務範囲を広げようとせずに、自社でカバーしたい業務のみに限定することが大切です。ERPは全てのデータを一元管理するシステムであるため、企業は導入時に多くの期待をもちがちです。導入後はERPにできるだけ多くの業務をやらせたいと考えるでしょう。
ですが、さまざまなことをERPにやらせようとするとERPが複雑化し、管理や運用が難しくなってしまいます。また、ERPソリューション以外の対策が必要となるためコストや導入までに時間がかかってしまう可能性もあります。
変更管理体制を整える
ERPは導入して終わりではなく、運用中にも業務フローの変更や制度改定などにより、システムの見直しや追加対応が求められます。これらの変更に対して適切に対応できるよう、「変更管理」の体制を整えておくことが、失敗を防ぐうえで非常に重要です。
変更管理とは、変更内容の影響を事前に評価・分析し、テストや社内周知などを段階的に実施する仕組みです。とくにクラウド型ERPでは、ベンダーによる定期的なアップデートがあるため、変更による影響を最小限に抑えるための運用体制づくりが欠かせません。
社内体制を整えてERPカスタマイズの失敗を防ごう
ERPを導入後、多少のカスタマイズは必要になるものです。そのカスタマイズを最小限に抑えるためにも現場スタッフを巻き込んだ組織全体の業務の洗い直しや、課題の明確化が大切です。
自社のニーズに合致した最適なソリューションの選定を行い、組織一丸となって社内体制を整えることがERP導入を成功に導く秘訣だといえるでしょう。
