ADCの位置づけとロードバランサとの違い
ADCの機能は、ロードバランサの機能を土台に、アプリケーション層の制御や付加機能を加えたものです。まず役割と違いを押さえると、各機能の位置づけを理解しやすくなります。この章では、機能を5つに分ける考え方を紹介します。
| 機能の分類 | 主な役割 |
|---|---|
| 振り分け | 複数のサーバへ通信を割り当て、停止したサーバを切り離す |
| 暗号化通信の処理 | 暗号化と復号をサーバに代わって行う |
| 高速化 | データの一時保存や圧縮で応答を速める |
| 防御 | 不正な通信の検査や認証の集約を行う |
| 可視化 | 通信の状況やログを確認する |
ADCが担う役割
ADCとは、Webアプリケーションの通信を安定して届けるために、サーバの前段に置く装置やソフトウェアです。利用者からのアクセスを受け止め、複数のサーバへ振り分けます。名称は、アプリケーションの配信を制御する装置という意味です。
役割は、可用性の確保、通信の高速化、安全性の補強の3つに大別できます。可用性とは、システムを止めずに使い続けられる度合いです。自社が重視する役割を先に決めておくと、機能の比較を進めやすくなります。
ロードバランサとの違いの整理
ロードバランサは、複数のサーバへ通信を振り分ける装置で、主にIPアドレスやポート番号といった通信の情報をもとに判断します。ADCは、この負荷分散を基本としつつ、アプリケーションの中身にも踏み込んで制御します。
例えば、URLや通信の内容に応じて振り分け先を変えたり、暗号化通信の処理を肩代わりしたりできます。ただしロードバランサにも一部の機能を持つ製品があります。呼び名だけで判断せず、機能の範囲を確認しましょう。
機能を分けて捉える考え方
ADCの機能は、振り分け、暗号化通信の処理、高速化、防御、可視化の5つに分けると整理できます。この記事でも、この5つの順に機能を解説します。自社に必要な分類を見きわめるための目安として使えます。
製品によって、標準で備える機能と、追加のライセンスやモジュールで加える機能が分かれる場合があります。標準か追加かの区別は費用の見積もりにも関わります。比較の早い段階で、各製品の提供会社に確認しておくと、見積もり後の食い違いを避けられます。
負荷分散と可用性を支えるADCの機能
負荷分散は、ADCの機能の土台です。振り分けの方法、故障したサーバの切り離し、利用者ごとの接続先の維持が、システムを止めずに使い続けるための基本です。ここでは、この3つの仕組みと確認点を順に整理します。
振り分け方式の種類
振り分け方式には、サーバへ順番に割り当てるラウンドロビンがあります。ほかにも、接続数が少ないサーバを優先する方式や、処理能力に応じて比率を変える方式などがあります。方式の数は製品ごとに異なります。
処理に時間がかかる通信が混ざるアプリケーションでは、単純な順番の割り当てだと偏りが出る場合があります。通信の特性にあわせて、どの方式を選べるかを確認しましょう。運用を始めたあとで方式を切り替えられるかも、確認したいポイントです。
ヘルスチェックによる切り離し
ヘルスチェックとは、サーバが正常に応答しているかを定期的に確かめる機能です。応答がないサーバを振り分けの対象から外し、復旧すると自動で戻します。利用者がエラー画面を目にする機会を減らす効果が期待できます。
確認の方法は、サーバの応答の有無だけでなく、特定のページの表示内容まで見る方法もあります。確認の間隔や判定の条件を調整できるかによって、切り離しの速さが変わります。条件が厳しすぎると、一時的な遅れを故障と誤って判定する場合もあります。
セッション維持の仕組み
セッション維持とは、同じ利用者の通信を同じサーバへ振り分け続ける機能です。ログイン状態をサーバ側で保持するアプリケーションでは、接続先が変わると操作が途切れる場合があります。そのため、セッション維持の可否は構成を決める前の確認事項です。
維持の方法には、送信元のIPアドレスを使う方法があります。利用者のブラウザに保存される小さなデータであるCookieを使う方法もあります。アプリケーションの作りにあう方法を選べるか確認しましょう。
SSLオフロードと高速化を担う仕組み
暗号化通信の処理、データの圧縮、接続の整理は、サーバの負荷を下げて応答を速める機能です。ADCは、これらの処理をサーバに代わって引き受けられます。ここでは、3つの機能の働きと注意点を整理していきます。
SSLオフロードの役割
SSLオフロードとは、暗号化通信の処理をサーバに代わってADCが行う機能です。SSLは通信を暗号化する仕組みで、現在は後継のTLSという規格が使われています。暗号化と復号は、通信量が増えるほど処理の負荷が大きくなる作業です。
この処理をADCに集約すると、サーバの負荷が下がり、証明書の管理もADC側にまとめられます。一方で、ADCとサーバの間の通信が暗号化されない構成もあり得ます。社内の安全基準にあうか確認しましょう。
キャッシュと圧縮の働き
キャッシュとは、よく使われるデータをADCに一時保存し、サーバに問い合わせずに返す機能です。圧縮は、通信するデータを小さくして転送を速める機能です。どちらも、利用者に届くまでの時間を短くする役割があります。
サーバの処理と回線の使用量を減らす効果が期待できます。ただし、内容が頻繁に変わるページや、利用者ごとに表示が異なるページは、キャッシュの対象にできない場合があります。対象を細かく指定できるかも確認しましょう。
接続の多重化と設定の調整
多重化とは、利用者ごとに作られる多数の接続を、ADCとサーバの間では少ない数の接続にまとめて使う機能です。サーバが管理する接続の数を減らせるため、サーバの負担を抑える効果が期待できます。接続のたびに生じる準備の処理も減らせます。
接続の維持や再利用の設定は、アプリケーションの動き方によって適した値が異なります。設定の変更が通信の遅延やエラーにつながる場合もあります。検証用の環境で挙動を確かめてから、本番の環境に反映しましょう。
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WAFや認証集約など防御に関わる機能
ADCは、通信が集まる位置にあるため、不正な通信の検査や利用者の確認をまとめて行えます。ここでは、防御に関わる機能の役割と、導入前に確認したい点を整理します。専用の製品を併用する場合との線引きも考えましょう。
WAFによる不正な通信の検査
WAFは、Webアプリケーションへの不正な通信を検査し、遮断する機能です。Web Application Firewallの略で、アプリケーションの弱点を狙った攻撃の影響を抑える役割があります。
ADCがWAFを備えている場合、暗号を復号した後の通信を検査できます。ただし、検知の内容や更新の方法は製品によって異なり、すべての攻撃を防げるとは限りません。検査の対象や遮断のルールを自社で調整できるかも確認しましょう。
認証の集約とシングルサインオン連携
認証の集約とは、アプリケーションごとに行っていた利用者の確認を、ADCの段階でまとめる機能です。シングルサインオンとは、一度の認証で複数のアプリケーションを利用できる仕組みです。
対応する認証の方式や、連携できるID管理の仕組みは製品ごとに異なります。既存のID基盤や、パスワードに加えて別の確認手段を求める多要素認証と連携できるかを確認しましょう。認証をADCに集約する場合は、ADCの停止が認証の停止につながる点にも注意が必要です。
アクセス制御と通信の制限
ADCでは、送信元のIPアドレスや接続先のURLをもとに、通信を許可または拒否する設定ができます。管理画面へのアクセスを社内ネットワークに限定する使い方もあります。設定内容は、運用の方針にあわせて見直せます。
短時間に大量の接続を試みる通信を制限する機能を備えた製品もあります。ただし、設定が厳しすぎると、正規の利用者の通信を止めてしまう場合があります。段階的に調整できるか、特定の相手を例外として設定できるかを確認しましょう。
ADCの機能を比較するときの確認項目
機能の名称が同じでも、できる範囲は製品ごとに異なります。比較するときは、可視化の機能、提供形態、必要な機能の優先順位の3点を確認しましょう。確認の結果は、表にまとめておくと社内で共有しやすくなります。
- ■可視化とログ
- 通信量や応答時間を画面で確認でき、ログを外部に出力できるか
- ■提供形態
- 機器、仮想環境、クラウドのどれで使えるか
- ■機能の範囲
- 必要な機能が標準で含まれるか、追加の契約が必要か
通信の可視化とログ分析の機能
可視化とは、通信量や応答時間、エラーの発生状況を画面で確認できる機能です。ログ分析は、記録された通信の履歴をもとに、遅延や異常の原因を調べる機能です。運用を続けるうえで、状態を把握するための手段として役立ちます。
障害時に原因を切り分けるには、どのサーバへ振り分けたか、どこで時間がかかったかを追えるログが役立ちます。ログの保存期間や外部への出力、異常を知らせる通知の設定に対応しているかも、比較したい項目です。
提供形態と拡張性の確認
ADCには、専用の機器として設置するハードウェア型、仮想環境で動かす仮想アプライアンス型、クラウド上で使うサービス型があります。仮想アプライアンスとは、機器の機能をソフトウェアとして提供する形態です。
提供形態によって、処理できる通信量の上限や、構成を変える手間が異なります。利用中のサーバ環境や将来の拡張の予定にあう形態かを確認しましょう。機能の追加が、設定の変更だけで済むのか、機器の交換が必要なのかもあわせて確認すると安心です。
必要な機能の優先順位の付け方
機能を比較するときは、まず自社の課題を洗い出し、必須の機能とあると望ましい機能に分けましょう。課題には、アクセス集中、暗号化通信の負荷、攻撃への備えなどがあります。優先順位は、運用を担う部門や開発部門と相談して決めましょう。
機能が多い製品が、自社に適しているとは限りません。使わない機能のために運用の手間や費用が増える場合もあります。複数の製品の資料を比べて、必要な機能が標準で含まれるか、追加の契約が必要かを確かめましょう。
機能の観点で確認したいADC製品
負荷分散など、この記事で取り上げた機能に関わる製品を掲載します。対応する機能の範囲は、資料で確認しましょう。
LoadMaster (株式会社OPENスクエア)
- HTTPコンテンツのキャッシングをサポート
- HTTP通信時のデータ圧縮
- 侵入防止(IPS)機能によるDoS攻撃対策
ArrayAPVシリーズ (アレイ・ネットワークス株式会社)
- SSLオフロードと負荷分散を1台で実現し、サーバ負荷を低減。
- 10/40 GbEインターフェースを搭載し、大規模システムに対応。
- API制御と仮想アプライアンスで多環境に展開可。
Alteon (日本ラドウェア株式会社)
- アプリの負荷分散と可用性向上を実現するADC機能
- 仮想化環境でADCを迅速に展開可能
- 多様な導入形態に対応し柔軟に運用できる設計
ADCに関するよくある質問
ADCの機能についてよくある質問と回答をまとめました。
- ■Q1:ロードバランサだけで足りるのはどのような場合?
- A:振り分けやヘルスチェックなど、基本の負荷分散だけで要件を満たす場合は足りることがあります。暗号化通信の処理やWAF、認証の集約が必要な場合は、ADCが選択肢です。まず自社の課題を整理しましょう。
- ■Q2:ADCにWAFの機能があれば、専用のWAFは不要ですか?
- A:検査の範囲や更新の方法は製品によって異なります。自社に必要な検査が含まれるかを確認し、不足がある場合は専用の製品との併用も検討しましょう。判断に迷う場合は、提供会社や専門事業者へ相談してください。
- ■Q3:SSLオフロードを使うと、証明書の管理はどう変わりますか?
- A:証明書をADC側にまとめて管理できる場合があり、サーバごとの更新作業を減らす効果が期待できます。ADCとサーバの間の通信を暗号化するかは構成によるため、社内の安全基準にあわせて確認しましょう。
- ■Q4:標準の機能と追加の機能は、どこで確認できますか?
- A:仕様書や見積もりで、標準のライセンスに含まれる機能と、追加の契約が必要な機能を確認します。同じ名称でも範囲が異なる場合があるため、提供会社に質問し、回答を書面で残しておくと安心です。
まとめ
アプリケーションデリバリコントローラ(ADC)の機能は、負荷分散を土台に、暗号化通信の処理、高速化、防御、可視化の5つに整理できます。ロードバランサの機能を含みつつ、アプリケーション層の制御や付加機能を備えている点が特徴です。機能の名称が同じでも範囲は製品で異なるため、必要な機能が標準で含まれるかを確認しましょう。複数の製品の資料を請求して、比較してみてください。

