Webアクセシビリティとは?
近年、多様なユーザーにとって使いやすいWebサイトづくりが求められる中で、「Webアクセシビリティ」という言葉が注目を集めています。まずは、Webアクセシビリティの基本的な考え方を解説します。
Webアクセシビリティの定義
まず、Webアクセシビリティとは、年齢や身体的条件に関係なく、すべてのユーザーがWebサイトを快適に利用できる状態を指します。例えば、視覚に障がいがあるユーザーがスクリーンリーダーを使って正しく情報を取得できる設計なのかは、一つの指標になります。
Webアクセシビリティ診断サービス・ツールは、Webアクセシビリティを自動でチェックするサービス・ツールです。画像の代替テキストの有無、見出しやリンクの構造、文字と背景のコントラストなどを評価基準にもとづいて検出します。
Webアクセシビリティ診断の重要性
アクセシビリティ対応は、ユーザーの利便性向上だけでなく、社会的責任としても重要視されるようになっています。日本では、2024年に障害者差別解消法が改正され、民間企業にも合理的配慮が義務化されました。さらに、JIS X 8341-3:2016や国際的なガイドラインであるWCAGへの準拠が、企業サイトの信頼性を高める基準とされています。
Webアクセシビリティ対応は任意ではなく、法令対応の一環として求められるようになっています。診断を通じて現状の適合度を把握し、必要な改善策を講じることは、法的リスクを回避する意味でも非常に重要です。
デジタル庁が公開している、初心者向けのWebアクセシビリティ導入ガイドブックもあります。興味のある方は、以下のサイトを参考にしてください。
Webアクセシビリティを診断するメリット
Webアクセシビリティ診断には、法令遵守以外にもさまざまなメリットがあります。ここでは、診断によって得られる代表的な3つのメリットを紹介します。
- ■Webサイトの品質向上
- 誰にとっても見やすく使いやすい構造に整えることで、サイト全体の完成度が高まります。アクセシビリティに配慮された設計は、ユーザーの離脱防止にもつながります。
- ■SEOの強化
- 構造化データの整備やテキスト情報の明確化により、検索エンジンからの評価が向上します。結果として、検索結果での表示順位アップが期待できます。
- ■顧客体験(CX)の向上
- すべてのユーザーがスムーズに情報へアクセスできるようになり、ストレスの少ない利用体験を提供できます。利用者満足度が高まることで、企業への信頼やロイヤリティ向上にもつながります。
Webアクセシビリティ診断の種類
アクセシビリティ診断にはいくつかの手法があり、それぞれの特徴や活用シーンが異なります。自社の目的にあった診断方法を選んでみてください。
- ■自動診断:専用のツールを使って、WebサイトのHTMLやCSSなどのコードを自動的にチェックする方法
- ・コーディングミスやラベル不足など、機械的に検出できる問題に強い
- ・短時間で多くのページをチェックでき、初期診断に最適
- ・見た目や文脈による判断が必要な課題は見落とされることがある
- ■手動診断:専門家が実際にサイトを操作しながら、表示内容や読み上げ結果、UIの構造などをチェックする方法
- ・自動診断では検出しきれない、読み順の不自然さや、キーボード操作のしづらさなどを発見できる
- ・デザインやコンテンツの意図をくみ取りながら評価できる
- ・時間とコストはかかるが、より深い品質評価が可能
- ■ユーザーテスト:実際に視覚・聴覚・身体的な障がいをもつユーザーにWebサイトを使ってもらい、使いやすさや課題をフィードバックしてもらう方法
- ・実際の利用環境・行動に基づく評価が得られる
- ・机上では気づけない、本当に困っているポイントが明らかになる
- ・定性的な情報が得られる分、課題の本質を捉えやすい
つまり、自動診断は「効率よく、広く浅く」、手動診断は「人の目で深く丁寧に」、ユーザーテストは「本当のユーザー視点でリアルに」チェックできる特性があると言えます。
無料ツールと有料ツールの違い
診断に使用するツールには、無料で利用できるものと有料で高機能なものがあります。予算や目的に応じて、適切なツールを選定することが重要です。
無料ツールは気軽に利用でき、初期段階の診断やトライアルに適しています。ただし、サポートや診断の深度には制限があるため、本格的な対策には向かない場合もあります。一方、有料ツールは詳細なレポートや専門スタッフによるサポートが受けられるため、継続的な改善や法的要件への対応を検討している企業には最適です。自社のニーズと照らしあわせて選びましょう。
Webアクセシビリティ診断サービス・ツールの選び方
多くの診断サービスやツールがあるなかで、自社にあったものを選ぶためにはいくつかの判断基準があります。ここでは主な3つのポイントを紹介します。
目的にあった機能があるか
診断だけできれば十分なのか、改善提案を重視するのか、あるいは法的証明書の取得が目的なのかなど、求める成果によって選ぶべきツールは異なります。診断を通じて何を達成したいかを明確にし、それに応じた機能を持つサービスを選定しましょう。
規模感と予算のバランスは適切か
診断ツール・サービスは、無料で使える簡易タイプから数十万円規模の本格的なものまで、幅広く存在します。Webサイトのページ数や診断対象範囲を考慮し、自社の予算に見合ったものを選びましょう。継続的な利用を視野に入れている場合は、長期的な費用対効果でツールを見極めることが大切です。
必要な法的要件に適合しているか
JIS X 8341-3:2016やWCAGなどのガイドラインに準拠しているかは、企業としての信頼性にも関わります。法令や業界基準に適合したツールやサービスを選ぶことで、今後の拡張性や監査対応にも安心して対応できます。また、現法令への対応だけでなく、新たな基準が制定された時のアップデートもスムーズなツールであれば、より長期的に利用が可能です。
Webアクセシビリティ診断の費用相場
診断サービスの導入を検討するうえで、費用感を把握しておきましょう。診断の範囲や方法によって金額は大きく異なります。
診断の範囲 | 費用相場 |
---|---|
簡易診断 | 無料~10万円程度 |
詳細診断 | 20~30万円程度(10ページ程度の場合) |
包括的なサービス | 40万円~ |
主な価格の変動要因は、診断対象のページ数・診断項目数・チェックの厳しさ・ライセンス数・診断方法です。手間や時間がかかるほど、診断が丁寧な反面、価格も高くなる傾向にあります。
【無料】Webアクセシビリティ診断ツール
まずは手軽に診断を始めたい方におすすめなのが、無料で使える診断ツールです。簡易的ながらも、基本的な問題点を把握するには十分な機能を備えています。
miChecker
総務省が提供する「miChecker」は、付属文書で検証作業を支援するアクセシビリティ評価ツールです。JIS X 8341-3:2016に準拠しており、チェック結果をExcel形式で出力できるため社内報告にも便利です。無料で利用できる点が大きな魅力ですが、Windows環境に限定されるため利用には注意が必要です。機能は基本的な自動診断に絞られており、簡易診断用途に向いています。
Lighthouse
Google LLCが提供する「Lighthouse」は、Chromeブラウザに標準搭載されているWebサイト診断ツールです。アクセシビリティの他にSEOやパフォーマンスも同時にチェックできるため、総合的な評価に役立ちます。無料かつ導入が簡単である一方、標準言語が英語のため、日本語への対応はやや限定的です。修正方法の記載もあるため、短時間で多角的にチェックしたい方におすすめです。
Color Contrast Analyser
The Paciello Groupが提供する「Color Contrast Analyser」は、テキストと背景色のコントラスト比を測定できる無料アクセシビリティ診断ツールです。チェックしたい色をスポイトで指定するだけで、WCAG 2.1や2.2に準拠した基準に適合しているかを即座に判定できます。Mac・Windowsの両方に対応しており、デザイナーや開発者のアクセシビリティ確認に広く利用されています。視認性に配慮した配色設計を行いたい企業に適しています。
NVDA 日本語版
株式会社シュアルタが提供する「NVDA 日本語版」は、視覚に障がいのある方が画面の情報を音声で確認できるWindows対応のスクリーンリーダーです。無料かつオープンソースで、日本語音声エンジンや点字ディスプレイとの連携にも対応しています。USBメモリから起動できるポータブル版が用意されているため、インストール不要で手軽に検証を行えるのも特長です。WordやExcel、Webブラウザとの高い互換性があり、実際のユーザー視点でのWebサイト検証に適しています。
【有料】Webアクセシビリティ診断ツール・サービス
より精度の高い診断や専門的なサポートを求める場合は、有料サービスの導入が効果的です。継続的な改善や社内のアクセシビリティ対応体制づくりにもつなげやすい点が特徴です。
axe DevTools / axe Monitor
Deque Systems, Inc.が提供する「axe DevTools」「axe Monitor」は、開発工程に組み込んで使える本格的な自動診断ツールです。実装段階でのアクセシビリティ問題を素早く検出し、継続的に品質を維持できます。大規模サイトや開発チームでの利用に適しており、CI/CD環境にも対応しています。アクセシビリティを技術面から確実に担保したい場合に向いています。
- ■プランと料金
- ・要問い合わせ
- ・拡張機能サービス(Chrome/Edge/Firefox)は無料
Siteimprove
Siteimprove株式会社が提供する「Siteimprove」は、JISやWCAGなどの国際基準への対応を重視した、継続的な診断と改善を支援するツールです。診断結果は日本語レポートとして出力可能で、社内共有やマネジメント層への報告にも使いやすい構成です。定期レポート機能やカスタマイズ性も高く、Webガバナンスの強化に適しています。専門性の高い運用が求められる企業におすすめです。
- ■プランと料金
- ・要問い合わせ
WAIV2
株式会社U'eyes Designが提供する「WAIV2」は、専門家による手動診断をメインとしたアクセシビリティサービスです。UI/UX面まで踏み込んで課題を発見できる点が特長で、実際の利用者視点での改善提案が期待できます。自動診断だけでは見逃されるような、代替テキスト(alt属性)の内容の妥当性にも対応可能です。実効性の高い改善を行いたい企業に向いています。
- ■プランと料金
- ・90日利用版 基本ライセンス:50,000円(税別)/1ライセンス
- ・1年利用版 基本ライセンス:100,000円(税別)/1ライセンス
- ・無期限利用版 基本ライセンス:200,000円(税別)/1ライセンス
- ・ライセンス追加は、基本ライセンスの半額(同企業内の同一契約に限る)
UniWeb
株式会社Kivaが提供する「UniWeb」は、診断だけでなく、改善提案や改修作業までを一括で依頼できるワンストップ型のサービスです。短納期・低コストでの対応実績があり、社内にアクセシビリティの専門人材がいない場合にも安心して任せられます。Webアクセシビリティの初期導入から改善フェーズまで一貫した支援を望む企業に適しています。
- ■プランと料金
- ・Pro(目安:メンバー20名。診断数30ページ):要問い合わせ
- ・Business(目安:メンバー100名。診断数100ページ):要問い合わせ
- ・※利用するドメイン(FQDN)数とPV数によって料金を算出
Webアクセシビリティ診断の流れ
Webアクセシビリティ診断は、一度きりの作業ではなく、段階を踏んで継続的に進めることが重要です。ここでは、診断から改善、運用までの基本的な流れを5つのステップで紹介します。
- 1.目的と診断基準の確認
- アクセシビリティ対応を行う目的を明確にすることが最初のステップです。例えば、「法令対応のため」や「誰もが使いやすいサイトを目指すため」など、方針によって必要な取り組みは変わってきます。あわせて、JIS X 8341-3やWCAGといった基準のどこまで準拠するかも、事前に整理しておく必要があります。
- 2.ツールやサービスによる課題特定
- 次に、専用ツールや外部の専門サービスを活用して、Webサイトの問題点を洗い出します。コードレベルの構造的なエラーから、ユーザー操作のしづらさまで、幅広くチェックすることが求められます。診断結果は後の改善方針に直結するため、精度の高い課題把握が鍵となります。
- 3.優先順位にもとづく改善計画の作成
- 把握した課題に対しては、重要度やユーザーへの影響度を踏まえたうえで、優先順位をつけて対応することが大切です。一度にすべてを改善するのは現実的ではないため、段階的な実施計画を立てましょう。また、チーム内のスケジュールやリソース状況に応じた対応計画にすることで、無理なく進行できます。
- 4.改善作業とユーザーテストの実施
- 改善作業を進めた後は、実際のユーザーに使ってもらい、使いやすさを再確認することが重要です。ユーザーテストを通じて、想定していなかった使いづらさが見つかることもあります。操作性や視認性などを細かくチェックし、最終的な品質向上につなげましょう。
- 5.運用体制の構築と継続的な改善
- Webアクセシビリティは、一度対応して終わりではなく、定期的な見直しと改善が求められます。新たなコンテンツ追加や法改正に対応するためにも、運用体制の整備が欠かせません。社内でルールを定めたり、定期診断を行ったりすることで、アクセシビリティを継続的に維持できます。
Webアクセシビリティ診断はサイト構築時が最適
Webアクセシビリティへの対応は、Webサイトの公開後よりも、構築段階で実施するのが理想的です。初期設計の段階で診断を取り入れることで、あとから大幅な修正を行う必要がなくなり、開発コストや工数を抑えられます。構造やデザインを整える段階でアクセシビリティの視点を加えることで、品質の高いサイトを効率よく構築できます。
また、納期に余裕がある段階で診断・改善に取り組むことで、チェック項目の見落としや対応ミスを防ぎやすくなり、焦らずより正確なアクセシビリティ対応が実現しやすくなります。Webサイトの構築に際してWebアクセシビリティ診断を検討している方は、以下のホームページ制作サービスの記事もあわせてご覧ください。アクセシビリティ以外の比較ポイントも紹介しています。
まとめ
Webアクセシビリティ診断は、すべてのユーザーにとって使いやすいWebサイトを実現する第一歩です。無料ツールで手軽に始め、必要に応じて有料サービスへ切り替えることで、段階的に対応できます。自社の目的や予算に応じた最適な診断ツールを選び、アクセシビリティ向上に取り組みましょう。