歯科電子カルテとは
歯科電子カルテは、歯科医院で行う診療内容や口腔内画像、レントゲン画像などをデジタルで一元管理できるシステムです。患者基本情報や治療履歴を即時に呼び出せるため、診療時間の短縮や説明の分かりやすさ向上に役立ちます。紙カルテの保管スペース削減や情報共有の迅速化といった効果も期待できます。
歯科電子カルテと医科カルテとの機能の違い
歯科電子カルテは歯式図へ直接入力し、歯番号や処置コードを自動反映できる点が大きな特徴です。さらに、口腔内写真やパノラマレントゲンをカルテ画面に並べ、治療計画と同時に確認できるため、視覚的な診療支援に優れています。
一方で医科カルテは全身診療を前提とするため、歯科技工指示や歯科レセプト点数の細分化には対応しておらず、入力項目と請求ロジックが異なることから歯科専用システムが必要です。以下では機能ごとに、より詳しく両者の違いを説明します。
機能名 | 歯科電子カルテ | 医科電子カルテ |
---|---|---|
カルテ入力支援 | 歯式図をクリックして処置コードを自動入力し、テンキーや音声入力にも対応。 | 診療科別テンプレートや自由記述が中心で、入力完了までに手間がかかりやすい。 |
画像・レントゲン管理 | 口腔内写真やパノラマ画像をカルテ画面に並べ、治療計画と同時に閲覧できる。 | CT・MRI など多様な検査画像を共有し、診療科横断で閲覧する。 |
歯周検査・補綴物管理 | 歯周ポケット深度や補綴物装着日を自動一覧化する専用フォームを搭載。 | 検体検査・薬剤オーダが中心で、補綴物管理は標準搭載していない。 |
レセプト連携・請求自動化 | 歯科点数表を自動算定し、自費診療や分割払いも計算可能。 | 医科点数表+DPC に最適化され、歯科技工料などは想定外。 |
予約・会計・在庫の業務連携 | チェア稼働をタイムライン表示し予約と同期、補綴材在庫も一体管理。 | 外来診察室や病棟ベッドをHISと連携し、部門別在庫管理が中心。 |
クラウドバックアップとセキュリティ | クラウド型が主流で画像自動バックアップ、多要素認証に対応。 | 医療情報システムの標準規格であるHL7 FHIRの導入推進。 |
歯科電子カルテが注目される背景
歯科業界では、医療DXの推進を受けて、現在電子カルテの導入が増加傾向です。背景には、2024年の診療報酬改定をはじめとする制度変更や、患者対応の質向上を目指す動きがあります。ここでは、電子カルテが注目される3つの要因を紹介します。
令和6年度の診療報酬改定と電子化推進
診療報酬改定は2年に一度行われており、制度の変更は、医療機関の収益に大きな影響を与えます。歯科医院にとっても、対応の有無が今後の経営に直結する可能性があるため、定期的に確認しましょう。
令和6年度の診療報酬改定では、「医療DX推進体制整備加算」の算定要件が見直されました。電子カルテや電子処方箋を導入している医療機関は加算の対象となり、診療報酬による収益向上が期待できます。一方、紙カルテを使い続けている場合は加算対象外となるため、歯科医院でも電子化を進めましょう。
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【歯科】|厚生労働省保険局医療課
DX化による業務効率化
診療の質向上と並行して、院内業務の効率化も重要な課題です。電子カルテはその中心的な役割を担います。電子カルテを軸に、予約管理や会計処理、在庫管理システムを連携させることで、各業務のデータが自動で共有。その結果、紙の伝票作成や手作業による転記作業を削減でき、スタッフの業務負荷が軽減されます。浮いた時間を患者対応や診療にあてられるようになり、全体の生産性向上につながるのもポイントです。
患者体験の向上と情報共有
電子カルテの導入で歯科医院の診療の透明性が高まり、患者にとっても多くのメリットをもたらします。治療中の画像データや説明資料を電子カルテに集約すれば、診察台のモニターで進行状況をリアルタイムに共有できます。これにより、患者の理解度が高まり、治療への納得感も向上します。
また、電子カルテがクラウドと連携していれば、技工所や他院ともスムーズに情報を共有できます。診療内容や治療方針を関係者間で迅速に確認できるため、連携体制がより強化され、診療の継続性とサービス品質の向上にもつながります。
歯科電子カルテのタイプ
歯科医院で利用される電子カルテには、大きく3つのタイプがあります。それぞれ、院内業務全般に対応するもの、レセコン業務と統合されたもの、カルテ記載に特化したものです。自院の診療スタイルや業務ニーズに応じて、最適なタイプを選ぶことが重要です。
歯科業務万能型
歯科業務万能型は予約受付、電子カルテ、会計、レセプト出力、オンライン診療、Web問診など、歯科医院に必要な機能を幅広く網羅しているのが特徴。診療から集患、請求までを一元的にサポートするクラウド対応型の製品もあります。ほかにも、予約管理や患者リマインダー、自動メッセージ配信などを搭載し、業務の効率化と患者体験の向上が期待できます。
レセコン統合型
レセコン統合型は、電子カルテとレセコンが一体となったタイプで、カルテ作成から保険請求までシームレスに行えます。紙カルテからの移行でも違和感の少ない操作感が特徴で、付箋・メモ感覚で使える共有機能や直感的な入力スタイルを備えています。介護保険請求や訪問診療にも対応し、訪問先管理や重複チェックなどの機能が実装されている製品もあり、訪問歯科を行う医院にも適しているでしょう。
専門分野特化型
専門分野特化型は、特定の診療分野や業務に特化した電子カルテで、機能を絞り込むことで特定のニーズに応えます。矯正歯科向けの製品や指示書作成などに特化した製品、入力カスタマイズに強みをもつ製品までさまざまなタイプが存在。
例えば、矯正向けのレセコンでは、治療の見積書・分割払い計画や画像比較、技工所への依頼管理を支援するものもあります。また、算定チェック・口腔情報管理・指示書作成などに重点を置いた製品などもあり、医療連携や業務精度向上を支える要になるでしょう。
歯科電子カルテの提供形態
歯科電子カルテには、クラウド型とオンプレミス型の2つの提供形態があります。導入コストや運用体制、セキュリティポリシー、ITインフラの整備状況などによって、どちらが適しているかは医院によって異なります。ここでは、それぞれの特徴と選び方のポイントを紹介するので、チェックしてみてください。
クラウド型
クラウド型は、インターネット環境があればどこでも利用できる利便性の高さが特徴です。専用サーバーを用意する必要がなく、初期費用を抑えられるため、小規模院や新規開業医院にも導入しやすい傾向があります。
さらに、自動アップデートや遠隔バックアップ、セキュリティ管理もベンダー側で対応するため、IT担当者がいない医院でも安定した運用が可能です。テレワーク対応や分院展開、訪問診療との相性も良く、業務の柔軟性を重視する場合に適しています。
オンプレミス型
オンプレミス型は、自院内に専用サーバーを設置して運用する方式です。システムを細かくカスタマイズしやすく、通信環境に依存しない点が強みです。院内ネットワークで完結するため、オフライン環境下でも利用できます。
ただし、機器保守やセキュリティ対策、データバックアップの管理は自院で担う必要があります。そのため、IT管理体制が整っている、または既存の医療システムと連携したい中規模以上の医院に向いています。
歯科電子カルテの選び方・比較ポイント
電子カルテは歯科医院の基幹システムとして日常業務に深く関わります。種類や機能、操作性、セキュリティ、サポート、費用など、多様な観点から比較検討することが重要です。ここでは、自院に合ったシステムを選ぶための主要なポイントを5つに絞って解説します。
必要な機能と操作性
日常業務を支える基本機能が揃っているかをまず確認しましょう。歯式入力、処置コード呼び出し、画像連携、SOAP入力、レセプト自動算定などは必須です。
さらに、テンキー配置や定型文ボタン、呼び出しショートカットなど、入力動線の工夫があるかどうかは診療スピードとスタッフ負荷に大きな影響を与えます。例えば、ドラッグ&ドロップ・付箋風の補助入力機能やカスタマイズ性をもつ製品もあり、効率的なカルテ記録を可能にしています。
レセコンや他システムとの連携性
電子カルテには、レセプト作成やオンライン請求など、レセコンの機能も備えた製品があります。電子カルテとレセコンが統合されたシステムを選べば、請求データの二重入力や手作業が不要になり、入力ミスと作業時間を削減できます。統合されていなくても、予約システム・在庫管理ソフト・問診アプリとのAPI連携に対応した製品を選ぶと、院内の情報が自動で同期し、業務の最適化が進みます。
セキュリティ要件
電子カルテを運用するにあたり、患者データの保護は厳重に行わなければなりません。暗号化保存、多要素認証、アクセスログ監査などによる不正利用対策は必要です。ISO 27001やプライバシーマークの取得状況といった第三者認証の有無、また国内の医療情報向けデータセンターでの運用状況を確認しましょう。クラウド型を導入する際は、複数拠点へのバックアップ保存が行われるかも重要になります。
サポート体制と導入支援
導入後のトラブル対応や運用支援がしっかりしているかも重要なポイントです。24時間対応のヘルプデスクやリモートサポートがあれば、診療外のトラブルにも迅速に対応可能です。さらに、初期設定代行やスタッフ研修プランがあるシステムは、導入直後の負担を大幅に軽減できます。費用体系と費用対効果
システム導入には初期費用や月額費用、更新費、オプション費用などが発生します。月額課金モデルではアップデート費と保守費が月々に含まれるため、長期的な運用コストが比較しやすくなります。一方、初期費用型の場合は診療効率向上やレセプトエラー削減によって、何年で費用回収できるかシミュレーションすることが重要です。長期的な視点で費用と効率化のバランスを見極めましょう。
【歯科業務万能型】おすすめの歯科電子カルテ
院内業務を一括管理したい歯科医院には、幅広い機能を備えた「歯科業務万能型」の電子カルテがおすすめです。このタイプは多機能で拡張性が高く、業務効率化と患者サービスの両立を図りたい医院に向いています。
Dentis
株式会社メドレーが提供する「Dentis」は、予約・問診・カルテ・会計を同一画面でシームレスに操作できるクラウド型業務支援システムです。オンライン問診やビデオ診療機能と連携して患者接点をDX化し、受付業務の省力化とサービス品質向上を同時に実現します。
電子カルテシステム With
メディア株式会社が提供する「電子カルテシステム With」は、口腔内写真・パノラマ画像をカルテ上に並べて表示できる「画像ナビビュー」が特徴の電子カルテシステムです。レントゲン連携からレセプト作成までワンクリックで行えます。診療入力ナビゲーションとチェック機能を備え、返戻リスクを低減できる点も強みです。
POWER5G
デンタルシステムズ株式会社が提供する「POWER5G」は、クラウド型ながら高速レセプト集計と自由な画面レイアウト変更に対応した電子カルテシステムです。訪問先や自宅でもスムーズに操作できます。サブスクリプションとライセンス買い切りを選択でき、院内環境や資金計画に合わせた導入が可能です。
iQalte
株式会社プラネットが提供する「iQalte」は、iPadとApple Pencilで歯式を手書き入力できる、ハイブリッド電子カルテです。用意された歯画像テンプレートに直接描き込めるため、図示が苦手なドクターでも視覚的にわかりやすいカルテを簡単に作成できます。技工指示書も、手書きの書き心地はそのまま、ワンストップで発行できます。
【レセコン統合型】歯科電子カルテ
診療記録とレセプト作成を一体化させたい場合は、レセコン機能を標準搭載した統合型の電子カルテが適しています。入力と請求業務を連携させることで、業務の正確性とスピードが向上します。
WiseStaff
株式会社ノーザが提供する「WiseStaff」は、通常のレセプト入力だけで電子カルテが自動生成されるレセコン統合型システムです。遠隔バックアップやVPNを活用した訪問診療、iPadビューアなどモバイル運用にも強く、法人・分院展開でもスムーズにスケールできます。
Palette
株式会社MICが提供する「Palette」は、カルテ・レセコン機能に加え、リコール通知や高度な経営分析をモジュールで拡張できるトータル支援システムです。必要機能を後から追加できる柔軟さと、チェア状況・売上指標をダッシュボードで可視化できる経営サポートが魅力です。
SUPER CLINIC
株式会社ラボテックが提供する「SUPER CLINIC」は、過去・当日カルテを同時表示し、クリックやドラッグだけでスピーディに入力できるハイブリッドクラウド対応電子カルテです。受付一覧・窓口管理・会計・レセプト一体化の機能をもち、豊富な外部システム連携と、改ざん防止を含むセキュリティ・データ保全機能も強化されています。
Opt.one3
株式会社オプテックが提供する「Opt.one3」は、SOAP式カルテとAI治療提案を組み合わせた電子カルテ・レセコン一体型システムです。訪問診療端末・クラウドバックアップ・歯周病検査アプリなど豊富な周辺ツールと連携し、院内外を問わずチーム医療を支援します。
【専門分野特化型】歯科電子カルテ
矯正歯科や訪問診療など、特定分野に力を入れている歯科医院には、専門領域に最適化された電子カルテが効果的です。必要な機能に絞り込むことで操作性が高まり、現場のワークフローにフィットしやすくなります。
Oasis
株式会社ブリックバーグが提供する「Oasis」は、矯正歯科に特化したクラウド電子カルテです。Web問診・画像編集・手書きシェーマ入力をワンストップで提供します。シンプルな画面設計と患者リマインド機能により、矯正特有の長期治療フローをスムーズに管理できます。
DOC-5 PROCYON 3 L-Plan
株式会社モリタが提供する「DOC-5 PROCYON 3 L-Plan」は、カルテ・会計・オンライン請求を核に、多彩なオプションを自由に追加できる拡張性を備えた歯科統合システムです。3D矯正シミュレーションとの連携をはじめとする矯正歯科向け機能が強みです。
【FAQ】歯科電子カルテに関してよくある質問
歯科電子カルテの導入を検討するなかで、多くの歯科医院が共通して抱える疑問があります。ここでは、システム選びや導入時の不安を解消するために、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- ■Q1:電子カルテ導入にどんな環境設備が必要ですか?
- 高速インターネット回線(上り下り100Mbps以上)とギガビット対応LAN、そして暗号化や多要素認証、自動バックアップを備えたクラウド・オンプレミスサーバーがあれば、日常診療を安全かつ円滑に運用できます。
- ■Q2:電子カルテとレセコンの違いは?
- 目的が異なります。レセコンは診療報酬請求(レセプト作成)を効率化することが目的なのに対し、電子カルテは、患者の診療情報を記録・管理し、医療の質を高めることが目的です。最近では電子カルテとレセコンが一体となったシステムも増えています。レセコンについて詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
- ■Q3:歯科電子カルテの導入はどんな流れで行われますか?
- 主に、以下の5つのステップで行われます。
- 1.現状業務フローの整理
- 2.製品の比較・資料請求での情報収集
- 3.自院にあった導入
- 4.デモ体験とスタッフ教育
- 5.本稼働後の運用と改善
- ■Q4:歯科での電子カルテの義務化はいつですか?
- 現時点で、歯科医院での電子カルテの導入は義務化されていません。しかし、政府は2030年までにクラウド型電子カルテの導入を医科医療機関に広く推進する方針で進めています。歯科医療機関に関しても、本年度から検討をはじめ、来年度中に具体的な対策方針を定めるとして、電子カルテ普及に向けた施策が予想されます。政府の医療DXの方針に関して、詳しくは以下のサイトをご覧ください。
まとめ
歯科電子カルテは、診療の質向上や業務効率化、患者との情報共有、さらには医療DXへの対応など、歯科医院のさまざまな課題を解決するツールです。製品によって機能や得意分野が異なるため、自院の診療体制やスタッフ体制、将来の展望にあわせて慎重に選定することが重要です。
まずは現状の業務フローを見直し、必要な機能や予算、サポート体制などを明確にしたうえで、製品の比較や資料請求、デモ体験を通じて導入を進めましょう。長期的な視点で運用改善を重ねることで、電子カルテは医院経営を長期的に支える存在になります。