生体認証とは
生体認証とは、身体の特徴を利用して本人を特定するシステムです。一人ひとり異なる人間の身体を利用することで、高いセキュリティを確保した認証方法といえるでしょう。あらかじめシステムに生体情報を登録し、認証時に登録した情報と比較して本人確認をする仕組みです。
生体認証機能は、機密性の高い情報を管理する企業などに導入されていますが、近年ではスマートフォンの画面ロック認証(画面ロック解除)にも用いられています。生体認証技術は日々進歩し、一般的な認証方法として認知されてきました。
生体認証の活用シーン
生体認証は、以下のような場面で活用されています。
- ●スマートフォンやPCのロック解除
- ●企業の入退室管理や勤怠管理
- ●ATMでの本人認証(特に静脈認証)
- ●空港での出入国管理(顔認証や虹彩認証)
- ●オンラインサービスへのログイン認証(声紋認証など)
生体認証の種類
生体認証にはどのような種類があるのでしょうか。代表的なものを含め8種類の生体認証の仕組みを紹介します。
指紋認証:模様から判断する
指紋認証は、比較的古くから使用されています。そのため、ほかの生体認証方法よりも技術が進歩しており、導入コストが低いのも特徴です。スマートフォンのロック解除でも指紋認証が使用されるため、身近な存在に感じている人も多いでしょう。
指紋は人によって大きく異なり、別人の指紋で間違って認証されることはほぼありません。ただし指紋認証は、汚れの付着や指紋の摩耗、皮膚の状態によって認証精度が下がるというデメリットもあります。特に指をよく使用する職業に携わる人は、指紋認証センサーのエラーに見舞われる可能性が高いといえるでしょう。
指静脈認証:血管の分岐点や方向から判断する
指静脈認証とは、血管の形や分岐点、方向などから認証する方法です。認証精度が高いことから、銀行のATMで使用される傾向が多くあります。
指静脈は指紋と違って一生変わらないうえ、体内の情報であるため第三者に取得されることもありません。また偽装も困難なため、セキュリティ対策を強化したい場合はおすすめです。ただし認証に必要な機器が高額なため、導入負担は大きいといえるでしょう。
虹彩認証:目の動作から判断する
一般的に瞳や黒目は、2つの部分にわけられます。1つは瞳の中心部にある瞳孔で、黒色をしています。もう1つはその周辺にある虹彩で、日本人の多くが茶色である部分です。
このうち、虹彩が生体認証に用いられます。虹彩には、人によって異なる細いシワが刻まれていて、基本的に一生変化しないといわれています。右目と左目でも異なり、それぞれの目で認証が可能です。偽装やなりすましは困難なうえ、認証精度が非常に高いのがメリットです。また、接触しなくてよいため衛生面でも優れています。
顔認証:輪郭などから判断する
顔認証は、顔の形から判断して認証する方法です。目や鼻といったパーツの位置や顔の輪郭を画像認識技術によって取り出し、距離や角度、色の濃淡などから判断します。
虹彩認証と同様に接触する必要がなく、センサーの前に顔を寄せるだけでよいため衛生的な方法です。ただし化粧や加齢、整形によって顔が変わると、認証精度が下がるというデメリットもあります。また、顔の見た目は重要な個人情報であるため、データの管理に細心の注意を払わなければいけません。
声紋認証:周波数から判断する
人間の声は、口や喉の形状によって異なります。形状は人によりさまざまで、声は千差万別であるため認証に利用できます。
周波数の分布を元に認証し、発声さえすれば認証可能です。必要な機器は基本的にマイクのみで、スマートフォンを利用した通話による認証も可能です。ただし、風邪などの体調不良による声の変化や雑音が紛れ込むと、正しく認証できない場合もあります。
耳介認証:耳の形から判断する
耳の形からも個人を特定可能です。あまり知られていませんが、犯罪捜査などではよく利用されています。顔の見た目と違い加齢や化粧による変化も少ないため、比較的高い精度で認証可能です。指紋と違って汚れや怪我でエラーが生じることもありません。カメラで耳の形を撮影するだけのため、簡便なのも特徴です。
DNA認証:遺伝子から判断する
DNAは、人体の設計図といわれており、4種類の塩基が二重らせんを構築しています。塩基配列の一部分は、人によって異なるため認証に利用できます。DNAはあらゆる細胞に格納されており、表皮や髪の毛、爪などのわずかな体のパーツから認証が可能です。
塩基配列を突き止めさえすれば非常に高い精度で認証可能です。しかし、人間がもつ塩基の数が膨大であるため、認証に時間がかかります。瞬時に認証が完了するほかの生体認証方法と比べて不便です。現在もさまざまな研究が進められています。
行動的生体認証(行動認証):習性から判断する
ここまで紹介した生体認証は、いずれも生来の身体的特徴を利用したものでした。しかし、後天的に獲得した無意識の習性も、認証に使用できます。
例えば、代表的なのが筆跡です。印鑑を使用する日本ではあまりなじみがありませんが、サインを利用する国では一般的に使われている認証方法です。文字を書く癖は安易に第三者が真似できないことから、信頼性の高い認証方法とされています。そのほか、パソコンによるキーボードの打ち方やマウスの動かし方など、個人の癖が無意識に現れる行動が行動認証に利用されます。
自社のセキュリティ強化に利用できる認証方法を知りたいという方は、複数の生体認証システムをチェックしてみましょう。以下の記事では、おすすめの生体認証システムを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
顔認証と指紋認証はどちらが安全か
さまざまな認証方法のなかでも、日常的に利用されることの多い「顔認証」と「指紋認証」は、どちらがより安全なのかを比較検討する場面が増えています。
結論として、顔認証と指紋認証のどちらが安全かは、利用シーンや求めるセキュリティレベルによって異なります。ただし一般的には、指紋認証の方が個人識別精度が高く、偽装されにくいため、セキュリティ性に優れているとされています。照明や表情の変化に左右されにくく、長年にわたり法執行機関でも使われてきた実績も信頼性を支えています。一方、顔認証は非接触で使えるため、衛生面や利便性を重視する場面に適しています。
つまり、どちらが優れているかは一概に決められず、使用目的や環境によって最適な認証方法は変わります。高いセキュリティを求める場合は、虹彩認証や静脈認証との組み合わせによる多要素認証の導入も検討するとよいでしょう。
生体認証のメリット
ここでは、生体認証のメリットを利便性と安全性にわけて解説します。
利便性が高い
パスワードのように記憶する必要がなく、ICカードなどの物理的な情報と違って持ち運ぶ必要もありません。紛失するリスクがないので管理の負担から解放されます。さらに、認証が瞬時に終わるのも特徴です。画面を操作してパスワードを入力するような手間は必要ありません。
安全性が高い
パスワードでは、第三者に知られてしまえば不正アクセスされることがあります。ICカードのような物理的な情報であれば、盗まれて悪用されることがあるでしょう。一方、生体認証データの場合はそのようなリスクが低いです。特に、虹彩情報や静脈情報を第三者が取得・悪用するのは非常に困難といえます。
生体認証のデメリット
生体認証は高い安全性と利便性を持ちますが、いくつかの課題や注意点も存在します。ここでは、導入前に知っておきたい具体的なデメリットを紹介します。
慎重な生体情報の管理が求められる
生体情報は、パスワードやICカードと異なり、一度流出すると基本的に変更ができません。そのため、生体認証に使用するデータは非常にセンシティブな個人情報として扱う必要があります。情報が第三者に取得・悪用されると深刻な被害につながるため、暗号化や難読化といった技術的な保護措置が不可欠です。
また、クラウドなど外部に保管する際は、アクセス制御やログ管理などセキュリティレベルの高い運用体制を整えることが求められます。
導入コストや運用負担が発生する
生体認証の導入には、虹彩カメラや静脈スキャナなどの専用機器の購入や設置にかかる初期費用が必要です。加えて、保守・メンテナンスの継続的なコストや、従業員への運用研修といった人件費的な負担も発生します。
トラブル時の対応体制や、既存システムとの連携なども考慮しなければなりません。中長期的に運用面の負荷がかかる点を理解したうえで導入を検討する必要があります。
プライバシーや倫理面の懸念がある
生体情報は本人の身体に直結する究極の個人情報であり、適切に扱わないとプライバシーの侵害につながるおそれがあります。例えば、利用者が知らぬ間に情報を取得されたり、本来の目的以外に使われたりするリスクも想定されます。こうしたリスクを防ぐには、利用目的の明示、取得時の同意取得、社内規程の整備、そして倫理的な運用の徹底が求められます。
まとめ
生体認証は人間の身体的・行動的特徴を利用した認証方法です。パスワードやICカードを利用した従来の認証方式より、安全性や利便性が高いことで注目されています。しかし、身体の変化などで認証できない場合や、生体認証情報の慎重な管理も求められます。それぞれの特徴を踏まえ、自社に最適な方法でセキュリティ強化をしましょう。